ある小学校の先生と話をしていた時に、次のような相談がありました。
うちの学校では、聴覚障がいの児童が3名学んでいて、それぞれご自身のタッチスクリーンマイクと受信機を使っているとのこと。普段は別々の教室でそれぞれ使っているそうですが、集合で授業がある時は、先生が3人分のタッチスクリーンマイクを首に架けて使っているとのこと。
「さすがにタッチスクリーンマイク3台を首に架けるのは、大変そうで何かいい方法はないですか」とのご相談でした。
そこで以下の3つのプランをご提案しました。
(なお図表中でタッチスクリーンマイクは、TSMとしています)
【通常】 難聴の児童3名がそれぞれ自己所有のタッチスクリーンマイクを別々の教室で使っている
【集合教育時】 先生Aが、児童3名分のタッチスクリーンマイクを使わなくてはなりません
(課題)先生が3台のタッチスクリーンマイクを首に架けなければいけないので、重い(困)
【Plan-A】
児童3人所有のタッチスクリーンマイクのうちAくん所有の1台だけを先生に使っていただき、
Bくん / Cくんの児童にはペアリングをして使っていただく。
(備考)先生は1台の使用だけで済むので軽くなります。児童Aくん所有の1台を他の児童Bくん / Cくんに対して
使うことになるので、それぞれの保護者様にも運用の説明が必要になると思われます。
またBくん / Cくんはそれぞれの教室で自分のタッチスクリーンマイクを使う時は、
ペアリングをし直す必要があります(これは簡単にできます)
【Plan-B】
学校側でタッチスクリーンマイクを1台ご購入、集合教育ではその1台を使っていただき、
それぞれの教室では、児童3人所有のタッチスクリーンマイクをそれぞれを使っていただく。
(備考)先生は1台の使用だけで済むので軽くなります。児童Aくん / Bくん / Cくんはそれぞれの教室に戻った時は
自分のタッチスクリーンマイクを使う為、ペアリングをし直す必要があります(これは簡単にできます)
【Plan-C】
学校側でタッチスクリーンマイクを3台ご購入いただき、
集合教育でも個々の教室でも、そのタッチスクリーンマイクを使っていただく。
(備考)児童は集合教育時とそれぞれの教室に戻った時は、ペアリングをし直す必要があります。
(これは簡単にできます)
(メリット)全て学校購入のタッチスクリーンマイクを使用する為、破損や家に忘れたりの心配がありません。
児童 / 生徒個人所有の「ロジャー」を学校の授業で使用する |
良いところ / 便利なところ |
①児童 / 生徒自身がロジャーの扱いに慣れており、教員に使ってもらうマイクとのペアリングなど、ある程度なら自分でできる。
②学校側の担当者の負担がほとんどかからない。
③学校や教育委員会での導入コストがほとんどかからない。
足りないところ / 苦労するところ |
①学校側で、合理的配慮の効果測定がしにくい。該当児童 / 生徒にヒアリングするしかないが、本人所有のものということもあり、ヒアリングもしにくい。
②教員の過失で機器を壊してしまった時、修理代負担の責任の所在が不明確で、児童 / 生徒の家庭の負担となるケースもある。
③ロジャーを所有していない、他の聴覚障がい児童 / 生徒からの支援要請があった時に、すぐに対応ができず、本来あってはならない「合理的配慮の差」が起きてしまいかねない。
④学校側で「ロジャーに関するサポート」を販売店やメーカーに依頼したくても、個人所有のため、遠慮が生じてしまう。
⑤学校側の担当者に、「ロジャーによる難聴児童 / 生徒支援の知見やノウハウ」が貯まらない。
学校 / 教育委員会側で「ロジャー」を購入し、児童 / 生徒に貸出す |
良いところ / 便利なところ |
①教育委員会 / 学校で導入することにより、難聴学級の担当者の方々に責任感が生まれる為、販売店やメーカーのサポートが受けやすく、支援メソッドのノウハウが蓄積できる。
②そのノウハウの蓄積により、新年度ごとの新しい支援要請にも、スピード感がある的確な対応ができる。
③卒業などで、その学校に難聴児童 / 生徒の在籍がなくなった場合、教育委員会主導で他の学校で機器を使ってもらうなど、柔軟な運用もできる。
④タッチスクリーンマイクをメインとして、ネットワークを組んでいろいろな形態の授業で展開できる。
(1)パスアラウンドマイクと組合わせて、健聴の児童 / 生徒の声を届ける
(2)マルチメディアハブと組合わせて、音楽やPCからの音声を届ける
(3)ネックループと組合わせて、UDトークなどの音声文字化アプリをインストールしたデバイスとの連携も可能
(4)デジマスターと組合わせて、健聴の児童 / 学生にも質の高い音声を届ける
⑤学校のサイトの支援学級のページに支援事例として掲載ができ、地域の難聴児の保護者への啓蒙も可能となり、学校としての支援に厚みができる。
⑥軌道に乗ると担当者の手離れが良く、児童 / 生徒 ⇔ 教員だけでも運用が可能。
⑦聴力に問題がなく補聴器 / 人工内耳を使っていないが聞こえや授業への集中ができない、発達障がい(ASD/ ADHD)や聴覚処理障がい(APD)の児童 / 生徒に効果がある事例もあるので、学校から保護者に提案ができる。
足りないところ / 苦労するところ |
①教員への支援要請は、学校担当者から行うことになり、機器の使い方などはある程度習熟する必要がある。
②導入のための初期コストがかかる。(運用コストはかからない)
③導入時の担当者から別の担当者に業務を引き継ぐ際に、機器の特殊性ゆえ少しハードルが高い。新任の担当者がロジャーについて掌握できていないと、活用ができなくなる状況にもなりかねない。
④受信機はそれぞれの児童 / 生徒が装用している補聴器 / 人工内耳の機種に合わせた機種の使用が望ましいため、学校で導入する際はある程度汎用性がある機種(ロジャーネックループ / ロジャーエックスなど)になる場合もある。または受信機だけは、個人所有のものを使っていただくケースも出てくる。
(2023/04/21 執筆)
こちらの記事もお読みください。