大学の障がい学生支援現場における補聴援助システム「ロジャー」検討 / 導入ストーリー(東京農業大学様のケース)

  はじめに  

学生数1万人以上を数える東京農業大学様では、障がい学生支援は「健康サポートセンター」が担っています。昨年秋にロジャー導入準備オンラインセミナーにご参加いただいたご担当のCさんから個別にご相談をいただきました。

(1)支援が必要と思われる学生が2名いて、それぞれヒアリングを実施しました。

(2)一人は難聴で、自分で持っているロジャーを授業で使っています。

(3)もう一人はAPDという障がいの診断を受け、病院で紹介された補聴器販売店から借りたロジャーを試そうとしているようです。

(4)それぞれのロジャーでいろいろ分からない事があるようなので、一度大学まで来ていただいて、個別に話を聞いていただけませんでしょうか。

 

12月のある日、世田谷のキャンパスを訪問しました。健康サポートセンターのCさん、教務課のDさん同席で、二人の学生さんのお話を伺いました。

東京農業大学様サイトよりお借りしました


   ヒアリング(1) 難聴のAくんは、森林学を学んでいます。

Aくんは、地域環境科学部 森林総合科学科で学ぶ 1年生。フォナック製の補聴器を装用して、自費購入のロジャータッチスクリーンマイクを使いこなしています。

 

今回のご相談は

(1)これからゼミなどが増えてくると、よく聞き取るためにはマイクをまわして使う必要がありますし.手間になる.また感染症対策も心配です。もしも収音力の強いマイクがあれば中心において話せるかもしれないがなにか優れた機種はありますか。

(2)学校から支給されている iPad で「Microsoft Word Dictation」を使って音声の文字化をしていますが、iPad のマイクでの集音だけだと、先生との距離が離れると変換効率が落ちてしまいます。ロジャーで改善できる方法はあるでしょうか。

以下、画像は全てイメージです


   ヒアリング(2) Bくんは、病院でAPD(聴覚情報処理障害)と診断されました。

 Bくんは、生命科学部 分子微生物学科で学ぶ3年生。X医療センターでAPDと診断され、紹介された補聴器販売店からロジャーセレクトとロジャーフォーカスⅡ-312 をレンタルしています。授業や就活で役に立てばいいな、と思って約1か月試聴をしてみました。

 

今回のご相談は

(1)授業での使い方が分からなくて、セレクトを自分の机に置いてみましたが、あまり効果がないように感じます。

(2)親は難聴で補聴器を付けており、補聴器型のフォーカスⅡを「ずっとつけていた方がいいのでは?」と言ってくるのですが、自分は今まで補聴器を付けたことがないので、なかなか慣れないんです。ずっとつけるのに慣らしていった方がいいのでしょうか。


   ご提案(1) 難聴のAくんには、ロジャーセレクトをお勧めしました。さて文字化アプリ連携には?

ゼミが増えてくるAくんには、「ロジャーセレクト」での試聴をお勧めしました。軽いし、先生に掛けていただくタイプでの使用が多いロジャータッチスクリーンマイクと同じような首掛けモードでも使えますし、グループミーティングなどでは、テーブルに置いて卓上モードで複数人の声を拾うこともできます。

 

また音声文字化アプリ(Micrisoft Word Dictation)との連携は、PCに「ロジャーネックループ」を繋いで試してみました。この時点では接続が上手くいかず、PCのマイクでしか音声を拾えなかったので、いったん持ち帰りとしました。教務課のDさんは「これが上手く繋がれば、今は先生にマイクを2本(ロジャーに繋げるタッチスクリーンマイクと、Word搭載PC に繋げる市販のマイク)付けていただいていますが、それが1本で済むことになりますよね。そうなれば画期的です」と仰っていました。


   ご提案(2) APDのBくんには、慣れない情報保障機器の利用に関してアドバイスしました。

難聴のAくんはロジャーを使い慣れているので、先生へのロジャー利用のお願いも自分でできるのですが、APDのBくんはロジャーのような機器を使うのが初めてなので、どうやって先生に依頼をすれば良いかも分からず、レンタルしたロジャーセレクトを自分の机に置いて使っていたようです。これだとロジャーの良さ(離れた先生の声を、やはりレンタルのロジャーフォーカスⅡ-312 に届ける)が活かされていないようでした。

 

Bくんには「マイク(今回はロジャーセレクト)は先生に付けていただかないと効果が出ないこと」を、大学の健康サポートセンター Cさん、教務課の Dさんには「APDの学生さんの場合、機器使用を先生にどう伝えれば良いかが分からないんだと思います」とお伝えしました。そうしたら教務課のDさんが「なるほど、そういう事でしたか。それなら私に任せてください。Bくん、次の授業に私が一緒に行って、始まる前に先生にお願いしてみるよ」と仰ってくれました。

 

またBくんには 「フォーカスⅡは補聴器と違って、常につけていなくても大丈夫です。授業の時など、集中したい時だけでも構いません」ともお伝えしました。


  1回目のヒアリング、ご提案はこれで終わりです。次は1か月後に試聴状況を伺います。  

難聴のAくんには、セレクトを卓上モードの使用感を中心に試していただき、iPad / ノートPC搭載のword Dictation との連携は、私と教務課のDさんとメールでやり取りしながら、ネックループでの連携を探っていく。

 

APDのBくんには、教務課のDさんのサポートをいただきながら、授業でセレクト+フォーカスⅡによる試聴を続けていただく。

 

ということになりました。健康サポートセンターのCさんには引続き、学内連携や調整、学生さんの窓口をしていただくことをお願いしました。


   試聴結果(1) 1月末に2回目のヒアリングに伺いました。難聴のAくんの試聴、そして Word Dictation との連携は?

難聴のAくんのセレクトの試聴は、卓上モードの使用感も含め上々だったようです。最終的には私が持参したロジャーオンも見ていただき、首掛けモード、卓上モードに加え、Aくんが手持ちで話者に向けられるインタビューモードも搭載しており、また夏には奥多摩演習林での屋外実習(携帯の電波も届かず、wi-fi も使えないそうです)もあり、2.4 GHz の独自電波を使い、軽くて携帯性も高いロジャーオンの導入を検討していただくこととなりました。

 

一方、iPad / ノートPC搭載のword Dictation との連携は、当方Windous ノートPC / iPad mini での検証は上手くいっていました。

 音声文字化アプリの新スタンダードになるか Windows PC+Microsoft Word Dictation(ワード ディクテーション)× 補聴援助システム「ロジャー」を検証する

 

当日の検証では、大学の iPad ではやはり不可、私の iPad mini(第6世代) では上手く接続できたので、教務課のDさんが難聴のAくん用に同じ iPad mini を用意していただく流れで、大学でのロジャーネックループの導入を検討していただくこととなりました。


   試聴結果(2)APDのBくんの試聴は、上手くいったでしょうか。

前回のヒアリングの時は、授業時に先生へロジャーを使っていただくのにも遠慮がちだったBくんも、教務課のDさんのサポートのおかげで、今では独りでも授業前に先生にロジャーセレクトを付けていただけるようになったそうです。ただ先生の話し方や姿勢によって、聞こえづらかったり、雑音が入ってしまうこともあるとのことでした。またロジャーフォーカスⅡ-312 の片耳装用と、両耳装用を比較してみましたが、やはり両耳装用の方が良かったとの事です。

 

Bくんは、4月から4年生に進級し、就活も始まったり、大学院への進学の可能性もあるということで、大学側のご判断としては、あと1年、大学で用意したロジャーを就活や授業で利用していただき、就職した際には、会社に対し合理的配慮を求めるなり、自身での購入を検討するなりを決めればいいのでは、とのことで、難聴のAくんと同様にマイクはロジャーオン、受信機は今回試聴のロジャーフォーカスⅡ-312(電池式)より使い勝手の良い充電式のロジャーフォーカスⅡと充電器のチャージャー BTE RIC の導入を検討していただくこととなりました。

 


  オンラインセミナー ⇒ 学生さんヒアリング ⇒ 実機試聴 ⇒ 再ヒアリングを終えて  

健康サポートセンター Cさん

「ノートテイクによる支援は、CaptiOnline も含めて検討しましたが、うちのように学生が多い割に、専門の障がい学生支援室ではないと大学側、学生側も併せてリソースの確保が難しく断念しました。その点ロジャーの導入は、初期コストはかかるものの、運用の手離れは良いのかな、と感じました。

 

今回はとにかく学生の話を一つ一つ聞いて、それを丁寧に解決していただき、フォナックさんには本当に感謝しています。また教務課のD さんが同席していただいたお陰で情報保障機器の準備やロジャーとの接続、また先生との連携などもスピードをもって進められたので、本当に助かりました。最終的に二人の学生が自分たちで納得して、今後の学生生活に活かすことができる準備ができたということで、大変良かったです」

 

教務課 Dさん

「(先生方との連携は)私の本業なので(笑) 今回はWord Dictation とロジャーの連携が実現できて、本当に良かったです。iPad のバージョン、ケーブルの接続口などの違いでヒヤヒヤしましたが、これで今後の学生支援の効率化に望みができました。Aくんの夏の演習林実習や、Bくんの就活でロジャーがどのように役立つか、いろいろ楽しみです」

 

コーディネイト 小野

大学様へのロジャーの提案は、支援室ご担当者様と進めていくことが多いのですが、今回は学生さん、教務ICT ご担当者様とワンテーブルでのミーティングの機会をいただき、本当に良かったです。「APD の学生さんがロジャーに慣れておらず、先生への依頼に遠慮して机の上に置いて試聴して、効果を感じられなかった」という、まさに現場で直接お話しできたことで拾えた「貴重な声」もありました。

 

学生さん二人の、大学の授業や実習に対する真摯な思いや、セルフアドボカシー(自分に必要なサポートを、自分でまわりの人に説明して理解してもらう行動のこと)も印象的でした。今後も提案現場の一つ一つで、その現場の環境に合った提案を目指していきたいと思います。 

 

即日、C さんが健康サポートセンター のE 課長に報告していただき、

 ロジャーオン × 2

 ロジャーネックループ × 1

 ロジャーフォーカスⅡ × 2 

 チャージャー BTE RIC ×1

のお見積りのご依頼をいただき、さっそく販売店へ連携しました。


E 課長は、一番最初、私が9月にコールでご案内した時にご対応いただいた方です。約15分にわたり、いろいろなご質問をいただき、そこから始まった案件です。まさにご担当者、学生さんが一体となって支援が実現したわけですね。

 

ありがとうございました。

 


(追記)

2023/11/08に別件で3度目の訪問をした際にE課長に、Aくん、Bくんのその後の状況を伺いました。

「二人ともロジャーを上手に活用しているようです。特にBくんのゼミの先生が「理解力が格段に上がってびっくりした」

と仰っていました(笑)

ありがとうございます。

左から、教務課の D さん、 A くん、健康サポートセンターの C さん

(撮影時だけ、マスクを外していただき、掲載許可をいただきました)

(2023/02/08 執筆 2024/01/16 加筆修正 / 妥当性判断)

(文責 / 撮影:ヒアリングエイド・ボルテージ・ドットコム / ソノヴァ・ジャパン 小野 有紀)

 

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