全国の市町村の軽度・中等度難聴児に対する助成で「FMはOKで、補聴援助システム ロジャーはNG」の矛盾はなぜ起きているのか?

「ヒアリングエイド・ボルテージ・ドットコム」では全国1741市区町村の「軽度・中等度難聴児に対する補聴器 / 補聴援助システム」の助成状況を調査致しました。

 調査期間:2021年9月12日~10月18日

 調査方法:各自治体サイトへのアクセスによる関連ページの精査

 

その結果、1741の市区町村の内、補聴援助システムの助成に関しては 309市区町村(全体の2割弱)に留まり、さらにその多くはFM補聴システムという「今は生産が終了しており市場には出ていない機器」の表記しかなく、実際に市場で入手できる「デジタル型補聴援助システム(=ロジャー)」に関しては、わずか83市区町村(全体の5%弱)でしか助成されておりません。

 

ここでは「何が問題なのか?」「何が求められているのか?」を明らかにしていきたいと思います。

以下は、私が集めた「難聴者」「難聴児を持つ親御さん」「大学の障がい学生支援室の担当者」「補聴器販売店の従事者」「メーカーのマーケティング担当者」などの声を集めたものです。

(2021/10/26 執筆 2022/05/11 追記 2022/08/12 妥当性確認 2023/05/20 追記修正) 

 

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そもそも「補聴援助システム」とは?

補聴器や人工内耳だけでは聞き取りの難しい場所や場面(学校や教室での授業や講義、会社での会議やミーティング、大勢での会食など)で、より快適な聞こえをサポートするシステムです。

 

話し手が装着する「送信機(ワイヤレスマイクロホン)」、難聴者が自分の補聴器や人工内耳と共に装用する「受信機」、教室や会議室などに置く「線音源スピーカー」などで構成されています。

セミナーや講義など話し手が遠い場所

複数の人と離れた席から会話をする場所

レストランなどの賑やかな場所


「補聴援助システム」導入の歴史

1st  Stage  FM型補聴援助システムの普及(1996年~)

スイスに本社を持つ世界的補聴器メーカー「Phonak(フォナック)」社は、早くから子ども用補聴器の開発、普及に力を入れていました。その開発の歴史の中で同社は、言語習得期の幼児、小学生はもちろん学生が学ぶ教室や講堂、野外フィールドでは、補聴器や人工内耳の機能だけでは聞き取りが難しい環境があることに着目し、FM電波を利用して、話し手の声を聞き手に直接届ける「FMシステム」を開発したのです。

 

欧米では40年以上前から愛用されているこのシステムは、日本では1996年に初めてフォナック・ジャパン社からリリースされ、多くのろう学校や聴覚支援学校に導入され、難聴児、難聴児を持つ親御さん、教育現場に携わる職員の方々の支持を得てきました。そして「補聴器」だけでなく「FMシステム」の助成が可能な自治体も徐々に増えていったのです。


2nd  Stage  デジタル補聴援助システム「ロジャー」の登場(2013年~)

従来の「FMシステム」のチャンネル設定の煩わしさや、FM電波の干渉しやすさを改善すべく、2013年、フォナック社は補聴援助システム「ロジャー」を世に出しました。デジタルワイヤレス技術により、設定も簡易となり、送信機1台で何台の受信機に対しても干渉せずに音声を送れるようになりました。多くのろう学校や聴覚支援学校でもFMシステムからロジャーへの入替えが進んだのです。

 

また他メーカーの補聴器 / 人工内耳への対応も可能な為、ロジャーは国内で唯一の補聴援助システムとして、多くの自治体や国公立機関における入札現場でも指名されるまでになったのです。


3rd  Stage 「合理的配慮」によりロジャー導入が進む(2016年~)

ろう学校や聴覚支援学校でロジャーに慣れ親しんだ生徒さんが、大学に進学することでロジャーの採用は大学現場でも拡がっていきます。折しも2016年4月には「障害者差別解消法」が施行され、国公立大学では「合理的配慮」が義務化、私立大学では努力義務化されました。2024年に施行される予定の「障害者差別解消法 改正法」では私立大学も義務化されます。(東京都の私立大学は2018年から都の条例により義務化されました)

 

2016年、そのタイミングでリリースされた「ロジャータッチスクリーンマイク」は、多くの大学で導入が進み、また聴覚支援学校やろう学校では、先行機の「ロジャーインスパイロ」との入替えが進みました。一方「FM型補聴援助システム」は2017年3月に販売終了となり、完全に「ロジャー」に道を譲ることとなるのです。

 

日本国内唯一の聴覚・視覚に障害を持つ学生を対象とした国立大学である筑波技術大学や、他校に先駆けていち早く障がい学生支援室を起ち上げた早稲田大学を中心に運営されている「PEPNet Japan(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク)」のシンポジウムへの出展などにより、全国130校以上の大学でロジャーの導入が進みました。


4th  Stage 「公 ➡ 個」「学生 ➡ 社会人」さらなる拡散(2019年~)

その流れにより、障がい者の雇用に積極的な企業でもロジャーの導入が進むこととなります。2019年に全日本空輸株式会社(ANA)様とソノヴァ・ジャパン社(旧フォナック・ジャパン社)とのコラボレーションで実現した「障がい者就労支援企画 ANA × フォナック 海外合同企業訪問」は多くの聴覚障がい学生の注目を集めました。

 

2018年にリリースされた「ロジャー セレクト」はグループミーティングなどで重宝するロジャー送信機ですが、利用者からは「もうセレクトなしの生活は考えられない」「セレクト持参で飲み会に参加するのが楽しみで仕方ない」などプライベートでも積極的に活用されているお声をたくさんいただいています。

 

受信機も、2020年には補聴器にロジャー受信機の機能をインストールできる「ロジャーダイレクト」がリリースされ(ただしフォナック社製の最新タイプの補聴器に限られますが。。)、ますますロジャーの利用環境が充実してきております。


デジタル補聴援助システム「ロジャー」助成の障壁

ここでは「何が問題なのか?」「何が求められているのか?」を明らかにしていきたいと思います。以下は、私が集めた「難聴者」「難聴児を持つ親御さん」「大学の障がい学生支援室の担当者」「補聴器販売店の従事者」「メーカーのマーケティング担当者」などの声を集めたものです。

 

本サイトで調査したように、全国1741市区町村の内、軽度・中等度難聴児に対する「FMシステム」の助成が可能なのは、226市区町村(全体の 13.0%)となりますが、実はここに「ロジャーの助成を希望される方」のお悩みがあるのです。それはロジャーの申請をすると自治体の方から「なぜFMシステムではダメなのか」「なぜロジャーでなくてはならないのか」「FMシステムとロジャーの違いを明確にしてほしい」などのコメントが出て、場合によってはロジャーの申請が却下される事もあるという事です。

 

もちろん「FMシステムと違ってロジャーは電波が干渉しない」とか「ロジャーは1台の送信機に対して受信機を無制限に繋げる」などの機能的な優位性はあるのですが、それよりもっと重要なことがあります。それは「FM型補聴援助システムは、2018年に販売中止となり、現在もう販売されていない」という事です。デジタル型補聴援助システム(=ロジャー)は、FM型補聴援助システムの後継機であり、比較対照するものではない訳です。

 

今は、分からないことは、インターネットで何でも調べられるという便利な世の中ですが、その落とし穴として「生産終了、販売中止になった製品情報」がネット上には「今でも販売されているかのように」散らばっている事です。その結果として自治体からは前記のようなコメントが出てしまうのであろうと推察します。

 

どうか自治体の皆さまにおかれましては、「FM」⇒「ロジャー」の流れをご理解いただいた上で、軽度・中等度難聴児の保護者さまからの申請に対して柔軟なご対応をお願いしたいという事を、本サイトからの提言とさせていただきます。

 

重要な追記(2022/05/11)

 

令和3年(2021年)6月4日に「障害者差別解消法の改正法」が公布され、3年以内に施行されます。

そういった流れの中で、本年 令和4年(2022年)4月1日に「補装具の種目、購入等に要する費用の額の算定等に関する基準」の改正が行われ、その前日3月31日に、厚生労働省から全国自治体の障害保健福祉担当者に向けて、「補装具費支給に係るQ&Aの送付について」という事務連絡が出されました。ここに注目すべき文章があります。

 

Q1 今般の補装具告示改正において、FM 型補聴器に関する記述 が削除されたが、FM 型補聴器は今後どのように取扱うべきか。

A  補聴器については、FM 型に代わりデジタル方式が支給されてい る実態を踏まえ、今回の改正とした。

  FM 型補聴器の修理申請等が あった場合は、特例補装具として対応されたい。

 

この一文だけでは、即座にデジタル補聴援助システム(ロジャー)が助成されるという訳ではありませんが、少なくとも「FM型 ⇒ デジタル」の流れは認識されているようなので、進展を期待したいと思います。

 

(参考)厚生労働省 補装具費支給に係るQ&Aの送付について

 

 

 

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